ハクキンカイロやZIPPOハンディーウォーマーの、「使い捨てカイロの約13倍の熱量」という謳い文句に疑問を持ったので、ちょっと考察してみる。
まず、「13倍」というのはどういう比較をした数字なのかが分からない。純粋にカイロ1個当たりなのか、単位質量当たりなのか、単位体積当たりなのか。質量や体積当たりだとしたら、燃料のみか、本体を含めているのか、いろんな算出方法が考えられる。とはいっても、単位質量・体積当たりというのは技術者が考えるだけで、普通はカイロ1個当たりだろうけど。また、この「13倍」という数字が独り歩きして、「13倍暖かい」、「13倍のパワー」、「発熱温度が13倍」など、意味不明な記述も多く見受けられる。
次に、「ベンジン1cc当り約11,500カロリー」と、もっともらしい数値も書いてあったりするが、これも嘘くさい。ベンジンは混合物なので一定の値にはならないが、主な構成成分である炭素数5~10の直鎖飽和炭化水素について適当に引っ張ってきた文献値から計算すると、燃焼熱は7300~8100cal/cm3である。一例として、オクタン (炭素数8の飽和炭化水素) について、燃焼熱5501kJ/mol、分子量114.23g/mol、密度0.7028g/cm3、熱の仕事当量4.19J/calとして計算すると、8078cal/cm3、11493cal/gである。11500calというのが「1cc当たり」でなく「1g当たり」の数字であれば、納得いくのだが…。
さて、それぞれのカイロから取り出せる熱量を計算してみる。使い捨てカイロの反応を熱化学方程式で書くと、

使い捨てカイロの重さが40gで、そのうちの60%が鉄であるとすると、鉄の原子量を55.845g/molとして、1個のカイロから取り出せる熱量は、

一方、ハクキンカイロの反応は、オクタンに代表させると、

オクタン25cm3で満充填したハクキンカイロ1個から取り出せる熱量は、

同様に、単位質量・単位体積の燃料当たりについても計算すると、下表のようになった (鉄の密度は7.874g/cm3として計算)。
| 使い捨てカイロ | ハクキンカイロ |
1個当たり | 172.8kJ | 846.1kJ |
燃料1g当たり | 7.198kJ/g | 48.16kJ/g |
燃料1cm3当たり | 55.68kJ/cm3 | 33.84kJ/cm3 |
カイロ1個当たりで比較しても4.9倍であり、上で仮定した条件が多少異なっていたとしても、「13倍」という数字はどこからも出てこない。
ついでに、パワー (仕事率) も計算してみる。上記の使い捨てカイロの持続時間が9時間とすると、5.33W。また、上記のハクキンカイロの持続時間が24時間とすると、9.79W。したがって、カイロ1個当たりのパワーの比較では、1.8倍となる。
では、「13倍」という数字はどこから出てきたのか。熱量が4.9倍 (846.1kJ/172.8kJ)、持続時間が2.7倍 (24hr/9hr)、これらを掛け合わせて13倍、というインチキな計算だったりして。まさかとは思うけど…。
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- 2014/01/29(水) 01:38|
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